名もなき日常

何気ない毎日が大きな物語を作っている

タイミング

タイミングというものは、時に自分の意思とは別に訪れる。

 

昨年の秋口に、退職を申し出た。

 

理由は、家庭不和を避けるためだ。

 

もちろんそれだけではない。

自分の中で、この仕事を続けていく自信や気力を失ってしまったことも大きい。

どれだけ家庭不和が原因であっても、

本当に続けたいを思えば、その手段はいくらでもあったはずだ。

要は、それを理由にして、自分の弱さを隠したかったのだ。

 

また、それ以外にもやりたいこと、すなわち「夢」というものが、

自分はあるのだと、自分なりに表現したかったのではないか。

 

具体的にどうしたいというものがはっきりあるわけでもない。

ただ、漠然と、大好きなものに触れていたいと思っている程度の

いわゆる薄っぺらいものだ。

口に出すのもの恥ずかしいレベル。

ただ、同様の夢を持つ友人が、少しでも自分より良い環境に身を置いていると、

それを心底羨み、己にもできるはずだと思い込む。

 

ただ、そこに踏み出す勇気も行動力もなく、

漫然と仕事を続けてきたが、結局、次のビジョンがないまま、

一時の家庭不和の回避のために、退職を申し入れた。

 

ありがたいことに、退職を避ける手段を

会社サイドとしては、いくつか提示をしてくれた。

ただ、それに応える回答を自身は持ち合わせておらず、

最終的には、退職の意を受け入れてもらった。

それが、半年程前の話。

 

ただ、次に行く会社が決まっているというわけではなかったので、

退職そのものを急いでおらず、年をまたいで退職することになった。

時間はまだ半年弱ほどある。

今後については、ゆっくり考えれば良いと、

まずは退職までの仕事に精を出すことを決めた。

 

ただ…

退職が決まった1ヶ月後、予期せぬことが起こった。

まったく予期せぬことかと言われればそうではないが、

このタイミングでなければならないことではない。

 

もっと早いタイミングでも起こりえたし、

もっと遅い可能性も十分にあり得た。

ただ、退職が正式に決まった1ヶ月後に起こったのが事実だ。

 

正確に言えば、退職が正式に決まった1ヶ月後に発覚したことなので、

もっと早く起こっていたことではある。

 

妊娠だ。

 

繰り返しになるが、もっと早くても、もっと遅くても問題はなかった。

それなのに、退職が正式に決まった1ヶ月後に判明した。

 

もっと早かったら、退職を選択せずに、産休・育休を取得するという選択肢を

迷わず選んだはずだ。

もっと遅かったら、転職の準備を始めていたであろう。

そして、新天地での仕事が落ち着くまでは、仕事に専念する選択をしたであろう。

 

でも、あのタイミングだった。

自らの意思とは別に、唐突に訪れた。

 

だからこそ、そういうものなのだろうなと思った。

何かを決めると、それに付随して、他の何かが動き出す。

それは、自分の意思とは全く別のところにある。

ただ、今回のことは、実は己の潜在的な意思なのではないかとも思う。

徐々にそう思うようにもなってきた。

 

産休まで2〜3ヶ月の妊婦だと分かっていながら、採用する企業はほぼ皆無だろう。

その結果、職業欄の「会社員」を選択しない生活が今日からスタートするのだ。

 

あのタイミングでことが起こらなければ、今の生活を選択していなかっただろう。

タイミングというものは、自分の意思とは別に訪れるが、

そのタイミングが、岐路になり、別の物語の始まりにもなる。